しびれにおける鍼灸治療。
体の不調の一つに「しびれ」というものがあります。
このしびれは、出血や打撲のように目に見えるものではなく、
咳や鼻水のような具体的な症状も伴わず、
人・時・場所によっても異なるため、
自分の現状を伝えるのが、とても難しい症状であります。
ですから、伝える手段としては、「ジンジン」「ビリビリ」
「チクチク」「ピリピリ」などと音に置き換えるオノマトペで
言語化するといった主観的要素が強くなる傾向があります。

またしびれの要素としては、下記の4つが関与しております。
①侵害受容性(感覚性):身体が怪我や熱、炎症などの有害な刺激(侵害刺激)を感知し、
痛みとして認識する生理的な機能。
②侵害防御性(運動や行動で軽減すること):身体が外敵やケガから身を守るために
感じる正常な警告反応。
③認知力(理解力・表現力に差異が生じること):神経の障害やストレス性の痛みが絡むと、
「ズキズキする」「刺すような」といった定型的な表現が難しく、「言葉では表現しづらい」
「もやもやする」など伝達に個人差が出る。また慢性的な痛みは、睡眠障害や
集中力低下を招き、正常な認知能力に悪影響を及ぼすことがある。
④情動・感情性:脳内で恐怖や不安といった情動と深く結びついており、
心理的なストレスや感情の抑圧が身体の痛みとして現れる。
これらが脳で統合され、相互に作用することにより、
しびれ・痛みといったものを体感することとなります。

このようにしびれの自覚は脳でなされますが、直接的原因は様々です。
まず神経系の中では、末梢神経から大脳中枢に至る感覚神経によるもの、
それ以外の運動系・自律神経系であったり、他にも原因不明のもの、
心因性のものが挙げられます。
《しびれを伴う主な症状》
【神経系以外によるもの】
●血行障害:閉塞性動脈硬化症
●局所の組織障害:皮膚炎
●代謝性疾患:低血糖・電解質異常
●内分泌疾患:甲状腺機能低下症
●血液疾患:貧血・真性多血症
●脱水
●更年期障害
●過換気症候群
●薬物副作用の一部
【感覚神経系によるもの】
●末梢神経障害:手根管症候群・外側大腿皮神経障害・足根管症候管・
糖尿病性神経障害・遺伝性ニューロパチー・帯状疱疹・腰部脊柱管狭窄症
アミロイドニューロパチー・小径線維ニューロパチー(SFN)・腕神経叢障害
●脊髄病変:多発性硬化症・視神経脊髄炎・脊髄炎・脊髄空洞症・頚椎症性脊髄症・
●転移性腫瘍・ナムチン症候群・ヒ素中毒・薬剤副作用の一部
●視床病変:視床梗塞出血後
●大脳病変:脳梗塞・脳出血
【感覚神経以外の神経系によるもの】
●筋・筋膜疾患:多発筋炎・好酸球性筋膜炎
●運動ニューロン疾患:筋萎縮性側索硬化症・ギランバレー症候群
●自律神経障害:無汗症
●錐体外路疾患:パーキンソン病
【その他・原因不明】
●むずむず脚症候群(RLS)
●薬物副作用の一部
●心因性
(標準的神経治療痺れ感より)
このようにしびれは、感覚神経・代謝性・内分泌・血行障害・更年期障害・
自律神経障害・心因性・薬物副作用・気候など様々であり、
原因を特定することが難しい症状となっております。
また、
現代ではこのしびれを漢字で書きますと「痺」となりますが、
本来は「痹」という字になります。
因みにこの漢字の成り立ちをは、
「疒」(やまいだれ)から構成され、「畀」が音となります。
痹の持つ意味は、
風や寒さ、湿気などが原因で体の関節が痛んだり、
しびれたりする症状。しびれ。
しびれて感覚がなくなるさま。しびれる。
とあります。(漢辞海より)
東洋医学におきまして、
この「痹」という言葉を使った症状に、
「痹症」というものがあります。
ここでの「痹」は、閉塞して通じないことを指し、
「痺症」とは、風・寒・湿・熱の外邪が経絡・関節などを侵して、
気血の流れが通じず、四肢関節の痛み・しびれ・運動制限などを
引き起こすことを指します。
この痹症には、病因となる風邪・寒邪・湿邪・熱邪の強弱によって、
行痹(風痹)・痛痺(寒痹)・着痹(湿痹)・熱痹に分類されます。
●行痹(風痹):風邪の遊走性により、気血の流れが通じなくなる部位が変動するため、
遊走性の痛みが起こる。関節の運動制限を伴うことが多い。
初期には悪寒発熱などの表証の証候を伴うことが多い。
●痛痺(寒痹):寒邪の凝滞性、吸引性により、固定性の痛みで冷えた感覚を伴う痛みとなり、
痛みの程度は強く、関節の強張りや屈伸不利を伴いやすい。
寒冷刺激によって症状が増悪し、温熱刺激で軽減しやすい。
●着痹(湿痹):湿邪の粘滞性、重濁性により、固定性の痛みで、重怠い感覚を伴う痛みとなりやすい。
湿気の多い場所や湿気の多い日に症状が増悪しやすい。
●熱痹:熱邪の炎熱性により、局所の熱感、発赤、腫脹を伴いやすい。
熱感を伴う痛みで、寒冷刺激によって軽減しやすい。全身症状として発熱、多汗、口渇を伴いやすい。
※症候・証候:身体から発せられる情報や現象を「症」または「症候」という。
症候を弁別し分析した結果を「証」と言い、疾病の段階的な状態や機序を概括
したものである。また、「証」の判断を下す根拠となる「症」の集まりを「証候」という。
(新版東洋医学臨床論より)
こうして『痺症』からも見られますように、
しびれには、気血の滞りというものが関与しております。
またしびれにより神経が過敏に興奮することにより、
交感神経が強く働き、血管を収縮させる作用が強く
働いてしまいます。
つまり、血行不良がしびれを増長する原因の一つとも
言えます。
そこで今回は、
痺れ対策のツボと共に、
鍼灸治療効果として痛みの緩和(鎮痛)だけでなく、
皮膚循環(皮膚血流)の促進や筋緊張緩和といったところに焦点を当て、
そこからしびれ対策のアプローチを考えて行きます。

ということで、
まずは「しびれ対策のツボ」を幾つかご紹介します!

体は声を発しませんが、
代わりに痛みや辛さで訴えてきます。
どのツボが良いかと迷われる時は、
今回紹介しましたツボの中から今の自分が気になったり
痛かったりする場所に近いところを選び、
まずはお灸やツボ押しをしてみてください。
腕のしびれ:中府・雲門・肩髎・大椎・大杼・肩井・天宗・臂臑・曲池・尺沢・少海・
郄門・神門・陽池・陽渓・陽谷
指のしびれ:気舎・天鼎・欠盆・極泉
(橈骨神経)曲池・手三里・合谷・偏歴・外関・四瀆
(正中神経)郄門・間使・内関
(尺骨神経)小海・支正・腕骨・霊道・神門
足のしびれ:腎兪・大腸兪・上髎・次髎・膀胱兪・志室・居髎・環跳・髀関・承扶・
殷門・委中・承山・陽陵泉・懸鐘・足三里・解渓
足裏のしびれ:湧泉・然谷・太渓・照海・水泉・公孫

手首周囲

しびれの原因の一つとして、
日頃の姿勢というものがあります。、
例えばスマホを見る時、パソコン作業時・車の運転など、
猫背や巻き肩になることが多くあります。
このような姿勢をする機会が増えますと、
神経や血管が圧迫される形となり、
手や腕に痺れを起こす要因ともなります。
ということで、
日頃の対策としましては、
肩周囲のストレッチを行うことにより、
血行促進させしびれの予防に繋がります。
方法としましては、
まず壁の横に立ち、肩を水平の位置に、
片方の手のひらを壁につけます。

次にそのまま壁についた腕と反対の方向に上半身をゆっくりねじり、
胸の前の筋肉を伸ばします。

足のしびれでは、
股関節の固さによることがあります。
この対策としましては、
お尻と太腿のストレッチを行います。
お尻のストレッチでは、
まず椅子に浅く腰掛け、

片方の足首をもう片方の膝の上に乗せます。


次に背筋を伸ばしたまま、
上半身をゆっくり前に倒してお尻の筋肉を伸ばします。

太腿のストレッチでは、
仰向けに寝て

片方の膝を抱え、胸の方へゆっくり引き寄せます。
その際、もう片方の脚は床から浮かないように伸ばします。

それぞれ15~30秒ほど行います。
加減としましては、筋肉が気持ちよく張っている程度とし、
反動を付けずに、息を吐きながらゆっくりと行いましょう。
その際、ストレッチ中に鋭い痛みを感じたり、
しびれが強くなる場合は無理せず直ちに中止してください。
続いて、鍼灸の治療効果についての話となります。
まず、皮膚循環(皮膚血流)の促進に効果に繋がるものに
『軸索反射』というものがあります。

軸索反射とは、末梢神経の軸索上で起こる反射様現象です。
皮膚に侵害刺激を与えると、刺激部位周辺に紅潮斑(フレア現象)や
膨隆が観察されます。
紅潮斑は軸索反射による皮膚血管の拡張であり、
膨隆は血管透過性の亢進に伴う血漿成分の漏出によるものです。
つまり、鍼とお灸による刺激は、いずれも皮膚に紅潮斑を生じさせることから、
鍼灸における皮膚の血流促進は、主に軸索反射によるものと考えられております。

また、軸索反射は皮膚だけでなく筋肉でも生じます。
筋肉に鍼の刺激が入りますと、筋に分布する侵害受容器(ポリモーダル受容器)を興奮させ、
軸索反射を生じさせます。
軸索反射により、侵害受容繊維の軸索末端から血管拡張物質が放出され、
これらが筋血管に存在する各々の受容体に結合することで筋血管を拡張します。

※紅潮斑(フレア現象):神経の刺激によって末梢の血管が拡張し、
皮膚が赤くぼんやりと広がる現象(軸索反射)を指す。
※膨隆:皮膚の一部が一時的に盛り上がる状態。
※軸索:神経細胞から伸びる細長い突起のこと。
他の神経細胞や筋肉などの器官へ電気信号を送り届け、
情報の「出力経路」としての働きがある。
※反射様現象:特定の刺激に対して、無意識に体が引き起こす反応全般のこと。
※侵害受容器(ポリモーダル受容器):体に痛みや危険をもたらす可能性のある
「侵害刺激」を感知し、それを電気信号に変えて脳に伝達する感覚受容器のこと。
つまり、鍼やお灸の刺激は、筋血流量を増加させ、
発痛物質や疲労物質の洗い流しを促進し、

痛みの緩和や疲労回復に役立つと考えられております。

他にも鍼とお灸には、心身の緊張をほぐし、ゆったりとくつろぎ、精神を落ち着かせる
リラックス効果があります。
鍼刺激を行いますと、人がリラックスしている時に現れる脳波であるアルファ波が出現し、
心身をリラックスした状態とする効果があります。
また、お灸に使用されるモグサ(艾)には、揮発性の精油が含まれており、その主成分である
シネオールは脳をリラックスさせる精神安定効果をもたらします。
(はりきゅう理論第3版より)

「痛みは単なる知覚ではなく、不快な情動体験でもある」(国際疼痛学会)
しびれや痛みとは、心身に負荷をかける有害な刺激であるのと同時に、
休養を促し自己を守る適応的な刺激でもあります。
人も沢山働けば休みが欲しいと思うように、
これまで無理して頑張って体もまた休みを欲しがっている。
その訴えを伝える手段として、しびれや痛みの信号を出している
という捉え方も出来ます。

しびれや痛みというものは、他人とは決して共有できないため、
なかなか周囲の理解を得られず、辛い思いを一人で抱えなければ
ならないことも多くあります。
また、しびれの原因が特定できないまま慢性化してきますと、
心因的なものとして扱われ、治療自体が先ヘ進まなくなるような
ケースもあるかと思います。
症状が長期化してきますと、
「しびれを嫌うとしびれに注意が向く」
「しびれに過敏となる」
「しびれを恐れてより注意が向く」
「しびれに過敏となり苦痛が強まる」
というように心身一体化して不快感が増してきてしまいます。
そうした結果、睡眠・食事・仕事・人付き合いなどといった
日常生活へも支障をきたしてしまいます。
しびれとは、脳で感じているからこそ、強いストレスをもたらし、
精神的にも影響をもたらしてしまいます。
ですから治療の中において、まずは前より生活が過ごしやすくなったか
という点が大切となります。
まずは痛みよりも、脳が感じている不快感をいかに緩和するかであり、
その中で、「生活上耐え難いしびれ」から「生活の中で許容出来るしびれ」
そして「さほど困らないしびれ」まで、段階的に意識を変化させていく
ことが鍵となります。
しびれは自分一人で辛さを抱え悩む症状をなりがちです。
ですから、これまで抱えて胸の内に仕舞いこんできたことも、
言葉にして吐き出すことも治療の一つとなります。
私はよく、これまで患者さんが背負ってきた悩みや辛さを、
リュックサックに例えます。
当院は、その背負ってきた重い荷物の中身を少しでも置いていってもらい、
来た時よりも身軽になって頂くところでもあります。

鍼灸による様々な効果を通じて、少しでもしびれの緩和へと繋げ、
少しでも辛さ苦しさを和らげるように、これからも向き合っていく
所存です。

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2026年5月24日 2:34 PM| カテゴリー : ツボ対策

